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この日記について

この日記は、他のリソースから転載したものが大半です。
2005年3月以降の日記は、mixiに掲載した日記を転載した内容が中心です。一部は実験的に作成したblogに書いた内容を移植させています。
2001年の内容の一部は、勤務先のweb日記に記載したものです。
1996年〜2000年の内容の多くは、旧サイトに掲載したphoto日記を転載したものです。
1992年6月〜99年9月の日記の大部分は、パソコン通信NIFTY-Serveの「外国語フォーラム・フランス語会議室」に書き散らしていたものを再編集したものです。ただし、タイトルは若干変更したものがありますし、オリジナルの文面から個人名を削除するなど、webサイトへの収録にあたって最低限の編集を加えてあります。当時の電子会議室では、備忘録的に書いた事柄もあれば、質問に対する回答もあります。「問いかけ」のような語りになっている部分は、その時点での電子会議室利用者向けの「会話」であるとお考えください。

1993年11月16日

 大学卒業後三年目、出張でフランスに行く機会ができた。初めてのヨーロッパ。海外そのものが二度目の経験だ。
 チェルノブイリ・メルトダウンの翌日、雨のパリに着いた。初めてのパリ。
 レストランのメニューが分らない。道の尋ね方も分らない。なんも分らない。
 教養時代、それなりにフランス語を勉強したはずだった。
「あの二年間はどこに消えた?」
 時間を無駄に過ごしたというショックが襲ってきた。
 これではいけない。せめてマクドナルドやセルフ以外のレストランで食事をできるようになりたい、使った時間を無駄に殺したくない……
 出張から帰ってから、昔の練習ノートを納戸から引っ張りだした。約3ヶ月間、毎日シコシコと取り組んだ。語学学校でちょんぼをしないために。
「語学学校に行こう」
 出張から帰る前から思い立った。しかし、かつて経験があるのにゼロからスタートするのも悔しい。かといって、どのレベルから始めたらいいのか分からない。せめて複合過去くらいまで、「回復」させようと思ったのだ。
 アテネ・フランセに通い始めたのは、1986年9月、出張から5ヶ月後のことだ。
 アテネにした理由は簡単。安かったこと、学校がしっかりしていること、そして会社から簡単に行けること。日仏のある飯田橋は会社から少し不便だった。
 選択した授業は本科初級レベル2。一回二時間、週二回の授業。毎週火曜、金曜、午後六時半に始まるコースを取った。講師は小村女史、テキストは Sans Frontier 1 だった。モージェなど、かつてのコースが姿を消そうとしていた。
 授業初日。
 始業10分前にアテネの校舎に着く。
 掲示板で教室を探し、なるべく後ろの方、それも端の席を取る。前に座る度胸はない。一番後ろもさける。ボトムエンドは、講師の性格によっては墓穴を掘ることもある。
 小村女史が時間ほぼジャストに入って来た。なかなか気難しそうな風貌。やれやれ、どうやっていたぶられるのだろう……
 はたと気がついた。
 出席で名前を呼ばれたら、何と応えればいいのだろう?
 真っ先に呼ばれないことを祈った。どうせアルファベット順だろう。A や Bで始まる人がいますように……
「マドモアゼル・……」
 よかった。先客がいる。
「Presente!」
 そうか、present でいいのか。少し気が落ち着いた。
 初級クラスということもあって、授業での説明は日本語が中心だった。
「初日なので、まず部分冠詞のチェックでもしましょうか?」
 小村女史が一人一人に質問を始めた。
「Buvez-vous de la bierre?
 Ouiで応えて!」
 間違えると「だめ!」の一言で切り捨て御免。
 否定で応える者はほとんど「だめ!」。
 最後の方の順番がまわってきた。
「Monsieur, vous ne buvez pas de bierre? Nonで応えて」
 ちぇっ、否定疑問で否定の回答かよ!
 そして、思わず応えてしまった。
「Non, je ne bois pas du bierre.」
「だめ!
 部分冠詞をわかっていない!」
 deと言うつもりだったのに。でも、順番が終わってほっとした。
 初日の授業で覚えているのは、このエピソードだけだ。
 小村先生には結局秋学期だけお世話になった。厳しい先生だったが、質問には丁寧に応えてくれたし、意地悪なことはしなかった。
 残念ながら、彼女はレベル1、2を常時受け持っているので、レベル3に進むと他の講師を選ばなければならなかった。
「ルールム先生って、どんな方ですか」
 これが小村先生にした最後の質問。ルールム先生というのは、次のレベル3で受けようと思った講師の名前だ。フランス人講師の授業となると、その人のクセなどが気になる。
「とても紳士的な方よ。怒鳴ったりすることはないし」
 小村さんのお墨つきで、安心して継続する気分になった。


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