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この日記について

この日記は、他のリソースから転載したものが大半です。
2005年3月以降の日記は、mixiに掲載した日記を転載した内容が中心です。一部は実験的に作成したblogに書いた内容を移植させています。
2001年の内容の一部は、勤務先のweb日記に記載したものです。
1996年〜2000年の内容の多くは、旧サイトに掲載したphoto日記を転載したものです。
1992年6月〜99年9月の日記の大部分は、パソコン通信NIFTY-Serveの「外国語フォーラム・フランス語会議室」に書き散らしていたものを再編集したものです。ただし、タイトルは若干変更したものがありますし、オリジナルの文面から個人名を削除するなど、webサイトへの収録にあたって最低限の編集を加えてあります。当時の電子会議室では、備忘録的に書いた事柄もあれば、質問に対する回答もあります。「問いかけ」のような語りになっている部分は、その時点での電子会議室利用者向けの「会話」であるとお考えください。

1994年05月12日

 菜の花畑が広がっていた。
 どこまでも、どこまでも、黄色い花畑が広がっていた。
 小さな菜の花畑が、寄せ集まっているのではなかった。
 広角レンズをつけたカメラを、おもいきりローアングルにして、小さな畑を誇張したのでもなかった。
 ひとつ、ひとつの区画が、見渡すかぎり、かなたまでつながっていた。
 電車のなかから、もたれ気味の胃をさすりながら、外をぼんやりと眺めていた。
 前の日とうってかわって、ときおり雨のぱらつく天気だった。
 かなたの地平線と、かなたの雲の境界があいまいだった。あいまいな境界あたりまで、菜の花畑がのびていた。きのうの午後は、真っ青な空と、菜の花畑の黄色、そして、まだ若い緑のぶどう畑が、くっきりとした線を浮かびあがらせていた気がした。

 ブルゴーニュの丘をながめたとき、山並みのみえないことが、印象的だった。
 地図をみるまでもなく、それはあたりまえのことだった。狭い日本と違って、ここは大陸のはしくれ[・・・・]、ゆるやかな丘を背中にすれば、目の前は地平線が広がるだけだ。ブルゴーニュの丘はゆるやかで、とがった山並みなど、見えるはずがなかった。
 ブルゴーニュといっても、ワインのなだらかな瓶を思いえがくだけだった。
 その土地について、あれこれ想像したことはなかった。
 ワインの里といえば、どうしても北海道の池田や余市、山梨県の勝沼あたりを連想してしまう。どの街も、畑が地平線まで伸びていることはなかった。かならず山並みが見えた。天気がよければ、ぶどう畑に残雪の残った山脈は、じゅうぶん絵になる景色だった。
 ブルゴーニュでついつい山並みを探したのは、勝沼などと比べたからではなかった。
 菜の花畑に出会うと、遠くの残雪の山を探すクセがあるだけのことだった。信州の野沢、とくに北竜湖あたりは、そんな絵になる風景をたのしませてくれたものだった。

 胃がおもい。電車のゆれが気になる。朝、無理矢理流し込んだコーヒーが、どうやら失敗だったようだ。
 もらった胃薬の包みをやぶいた。前の日にボーヌの街で買ったヴォルビックの栓を開く。腹に力が入らなかったので、ついつい電車の揺れにゆすられてしまう。胃薬の顆粒が少しこぼれ、袖口に水玉のような粉のあとがついた。
 薬を舌の上にのせ、ミネラル・ウォーターで一気に流し込む。舌先にすこし苦さが残った。その苦さを確認しただけで、なんとなく、胃が軽くなったような気がした。同行者に気づかれないよう、一度、軽いげっぷをした。
 旅行の帰りに胃がおもい——だけど、おもさを感じるたびに、むしろ楽しい気分さえあった。
 胃がおもいのも当然だった。パリに住んでから粗食が身についていたにもかかわらず、前日に夕食では、アントレからバター・ソースたっぷりのエスカルゴを味わったのだ。メインのボリュームが、それに劣るはずがない。チーズとケーキという二重のデザートも、胃には申し訳ないと少しは思いながら、うきうきと味わってしまった。
 子牛のメダイヨンにかかったソースは、前菜のバター・ソースにからまれた舌の上でも、はっきりと自己主張をしていた。
 正直言って、フランス料理のこってりしたソースは好きなほうではない。もちろん、うまいと思うけれど、おろし醤油やわさび醤油で食いたいと思うことのほうが多い。
 でも、このときは最後まで、醤油や大根おろしを恋しくなることがなかった。
 柔らかな肉をたっぷり味わったあとは、パンでソースを味あわせてもらった。十分後、給仕はほとんどぴかぴかになった皿を、ぼくの目の前から下げていった。


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