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この日記について

この日記は、他のリソースから転載したものが大半です。
2005年3月以降の日記は、mixiに掲載した日記を転載した内容が中心です。一部は実験的に作成したblogに書いた内容を移植させています。
2001年の内容の一部は、勤務先のweb日記に記載したものです。
1996年〜2000年の内容の多くは、旧サイトに掲載したphoto日記を転載したものです。
1992年6月〜99年9月の日記の大部分は、パソコン通信NIFTY-Serveの「外国語フォーラム・フランス語会議室」に書き散らしていたものを再編集したものです。ただし、タイトルは若干変更したものがありますし、オリジナルの文面から個人名を削除するなど、webサイトへの収録にあたって最低限の編集を加えてあります。当時の電子会議室では、備忘録的に書いた事柄もあれば、質問に対する回答もあります。「問いかけ」のような語りになっている部分は、その時点での電子会議室利用者向けの「会話」であるとお考えください。

1996年08月02日

 13区の税務署(Centre des Impots)に行く。場所は Pantheon-Sorbonne大学本部庁舎の向かい。うちからなら83番のバスで直行である。税務署には久々に訪れたので、何階にいけばいいのか忘れた。受付で住所を告げ、担当階を教えてもらう。9階であった。エレベーターを降りてすぐ右に受付がある。待合所の椅子にけっこう人が多い。受付で用件と住所を話す。整理券を渡される。白札の9番。
 奥から係官が一人やってきて、受付にいま終わった人の札を返している。次の順番の人を呼ぶ。
「青札5番の方!」
 "Bleu"がほとんど "Blanc"に聞こえた。現に白札5番の人が自分の番だと勘違いしてたから、おれの聞き取り能力が悪いわけではない。あんちゃんがなまっとったんや。
 50分ほど待って、ようやく自分の順番がやってくる。なかなか話のわかりそうな雰囲気の男性係官である。部屋に案内され、椅子をすすめられる。ちょっと待ってねと言って、彼は一度部屋を出ていった。1分ほどで戻ってくる。
「で?」
 想定説明文を頭に思い描き、一気にしゃべりきる。先方は「ん」と相槌をうつだけ。話し終わると、「そういう職種だと、専門の担当官がいるので、そちらで相談してみてくれないかな?」ときた。反対側の区画に導かれ、とある事務所に促される。彼とはそこでバイバイであった。
 部屋の主はけっこう几帳面そうな中年の女性であった。過去の経験によると、もっとも杓子定規で手強そうな雰囲気が漂っている。こういう人は、いきなり突っぱねるか、とことん面倒をみてくれるかのどっちかだ。
「印税収入の申告をしたいのです」
 ちなみに「印税」が droit d'auteur というのは、先日 AGESSA でもらった資料で初めて知った。申請のたびにいろいろと単語を覚える。胃壁に一つひとつ、単語が刻まれているのである。
 最初の反応は予想通りであった。過去の滞在が学生身分であれば、その間に正規の労働許可はおりない。よってその期間中に収入はあり得ないはずである。ならば所得申告は必要ないし、そもそもできないはずである、と。
「だって奨学金で生活していたんでしょ?」
 という質問のところで、切り返してみた。奨学金はもらっとらん。フランスにいて日本の出版社相手に本を書いていた。所得も日本で発生していた。AGESSAにそう説明したら、フランスでの所得として申告できるといった。だからほれ、こんな書類をくれたんですよ、と。
 ここで彼女の自信が揺らいだようだ。結果的に、これがラッキーだった。税金を払えるようになって運がいい、というのは変だが。彼女は隣室の上司のところに相談に行った。間のドアが開けっ放しなので、やりとりは筒抜けだった。上司はひどいマルセイユ訛りだった。
「彼は学生だったのだから、申告はできないはずでしょ?」
「そんなことはない。現滞在許可証を持ってフランスに滞在していて、理由はなんであれ報酬を得たのであれば、それは課税対象となる」
 外国相手に仕事をして外国で報酬が発生するというのは、たぶん法律の想定外のことなんだろう。彼女が戻ってきた。ここから先は、「強い見方」となった。
 必要書類を一つずつ提示する。書き方を細かく教えてくれた。
「円をフラン換算するレートはどうするんですか?」
 おお、とかいいながら、書棚からなにやらマニュアルを引っぱり出してきた。年間の平均レートを用いるらしい。94年分の収入については、1円あたり 0.0536フラン、95年が 0.0485フラン。こういう数字をみるたびに、はよ円もデノミしてくれんかな、と思ってしまう。
 所得の証明書類は必要ないのか、と尋ねたら、日本の源泉徴収表に法定翻訳を添えてくれ、といわれた。15分ほどで、ひととおり話は終わった。一気に申告まではできなかったが、どうせそんなうまく事が進むわけはないと思っていたので、この日は上々の成果だと思った。
 双六で一こまようやく進んだ気分がした。


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